「決算は黒字なのに、お金が残っている実感がない」。経営者の方から、最もよく伺う言葉のひとつです。
これは感覚の問題ではありません。利益と現金は、そもそも計算の仕方が違います。両者がずれるのには構造的な理由があり、しかも会社が成長しているときほど、ずれは大きくなります。
1. 売掛金と在庫は、現金が先に出ていく
売上を計上した時点では、まだ入金されていません。売掛金として計上され、現金になるのは1か月後、2か月後です。一方で、仕入代金や外注費、人件費は先に支払っています。
在庫を持つ業種では、この差がさらに開きます。仕入れた時点で現金は出ていきますが、費用になるのは売れたときです。手元の現金は減っているのに、損益計算書の上では何も起きていない、という状態が生まれます。
売上が伸びれば伸びるほど、先に立て替える金額は大きくなります。成長そのものが、現金を必要とする構造になっています。
2. 借入金の元本返済は、損益計算書を通らない
ここが、最も見落とされやすい部分だと感じています。
借入金を返済するとき、費用として計上されるのは利息だけです。元本の返済は、貸借対照表の借入金が減るだけで、損益計算書には表れません。つまり、利益がいくら出ていても、そこから元本返済分の現金が出ていきます。
たとえば年間の元本返済が3,000万円ある会社で、税引後の利益が2,000万円だとします。損益計算書は黒字ですが、返済に必要な現金は足りていません。差額はどこかから埋めるしかなく、多くの場合それは手元資金の取り崩しか、新規の借入になります。
決算書を黒字にすることと、返済できる状態をつくることは、同じではありません。
3. 税金は、現金の有無と関係なく発生する
法人税等は、利益に対して課されます。手元に現金があるかどうかは、計算に関係ありません。
売掛金が積み上がっていて実際には入金されていなくても、利益が出ていれば納税義務は生じます。ここでも、利益と現金のずれが、そのまま資金繰りの負担になります。
なお、個別の税務判断は会社ごとの状況によって結論が異なります。実際のご判断にあたっては、必ず個別にご相談ください。
見えていないだけ、という場合が多い
ここまでの3つは、どれも特殊な事情ではありません。ほとんどの会社に当てはまる、ごく普通の構造です。
問題は、それが数字として見えていないことのほうです。月次決算が2か月遅れで出てくる、資金繰り表がない、年間の着地見込みを誰も持っていない。この状態では、現金が足りなくなることに気づくのが、足りなくなった当日になります。
必要なのは、利益とは別に現金の動きを見ることです。月次で、いつ・いくら入り、いつ・いくら出ていくのかを把握できていれば、資金が必要になる時期は事前に分かります。事前に分かっていれば、銀行に相談する時間も残ります。
お金が残らない状態は、設計で変えられる
利益とキャッシュのずれ自体は、なくすことができません。事業の構造から生まれるものだからです。
変えられるのは、そのずれを前提にした設計のほうです。回収と支払のサイクル、必要な運転資金の水準、借入の返済期間、手元に置いておく現金の厚み。これらを先に決めておけば、黒字なのに資金繰りに追われる状態からは抜けられます。
利益を出すことと、お金を残すことは、別々に設計する必要があります。