バンクフォーメーションとは、何ですか。
取引する金融機関の組み合わせと、各行に担ってもらう役割の設計です。どの金融機関から、どの種類の資金を、どれだけ調達するかをあらかじめ決めておくという考え方になります。
多くの会社では、この設計が意図的に行われていません。取引が増えたのは、金融機関から声がかかった順であったり、案件ごとに条件の良いところを選んだ結果であったりします。その積み重ねは構成ではなく、履歴です。
1行だけと取引していると、何が問題ですか。
その金融機関の方針変更や、支店長の異動によって、資金調達の環境が急に悪化する可能性があります。会社側に落ち度がなくても起こり得ることであり、これが最も避けたい構造です。
民間金融機関と政府系金融機関の両方と取引がない、あるいは民間のなかでも属性の異なる金融機関との取引がない、という状態も同じリスクを抱えます。都市銀行、地方銀行、信用金庫、政府系はそれぞれ融資方針も判断基準も異なるため、一方が慎重になった局面で、他方が支えるという構造を持てるかどうかが分かれ目になります。
とくに成長期においては、地方銀行を中心とするバンクフォーメーションを構築できているかどうかが、資金調達力に大きく影響します。ここを作らないまま規模を追うと、攻めの経営を継続できなくなります。
出典:日本政策金融公庫
金融機関は、何行と取引すべきですか。
年商規模によって変わります。目安としては、年商3億円前後で2行から3行、年商10億円前後で3行から4行、年商30億円前後で4行から5行程度です。ただし数そのものより、各行のシェアと役割の配分が重要になります。
| 年商規模 | 構成の目安 |
|---|---|
| 3億円前後 | メイン1行+サブ1〜2行。公庫や保証協会付き融資を併用する段階 |
| 10億円前後 | メイン1行+準メイン1行+サブ1〜2行。プロパー融資の比率を上げていく段階 |
| 30億円前後 | メイン1行+準メイン1〜2行+サブ2行程度。当座貸越などの枠取引を組み込む段階 |
上記は実務上の一般的な目安であり、業種・資金需要の性質・地域の金融環境によって適切な構成は変わります。
メインバンクは、どう決めればよいですか。
融資残高のシェアが最も大きく、資金繰りの中心を担っている金融機関がメインバンクです。決めるものというより、結果として決まるものですが、意図的に選ぶ余地はあります。
選ぶ際の観点は、自社の規模帯を主要な取引先としているかどうかです。金融機関にはそれぞれ得意とする企業規模があり、その範囲から外れると、支店の裁量で判断できる金額の上限に早くぶつかります。
もう一つは、シェアの水準です。メインバンクのシェアが薄まりすぎると、その金融機関が主体的に支援する動機が下がります。すべての行に均等に配分することは、一見公平でも、いざというときに誰も主導しない構成になりやすくなります。取引が分散しすぎて、力を入れて応援してくれる銀行を作れないという状態は、実務上よく見かけます。
新しい金融機関とは、いつ取引を始めるべきですか。
資金が必要になる前です。必要になってから新規に開拓すると、金融機関側には過去の取引実績がなく、条件を選ぶ余地もありません。
次の成長段階で必要な調達額を試算する
3年後の投資計画から逆算する。現在の取引構成でその額を賄えるかを確認する。
不足する供給力を特定する
既存行の与信枠、支店の裁量金額、シェアの偏りから、どこが不足するかを見る。
金融機関アプローチリストを作る
候補を洗い出し、最終的な取引金融機関数の目標を先に定める。自社の規模帯を主要な取引先としているか、地域での営業方針が合うかを見る。
少額から取引を始める
決算書と月次の情報開示から始め、少額の融資で実績を作る。
定期的に情報を提供し続ける
借入がない時期も、決算報告と事業の進捗を伝える。必要になった時点で初めて連絡する関係では、判断材料が足りない。
各行に、同じ説明をすべきですか。
同じ資料と同じ説明で臨むのが原則です。金融機関の間では、融資残高や返済状況は把握されており、説明が食い違えば整合性を問われます。
一方で、各行に期待する役割は分けて伝えて構いません。長期の設備資金を担ってもらう行、運転資金の枠を担ってもらう行、といった役割分担を明示することは、金融機関側にとっても自行の位置づけが分かりやすくなります。
避けたいのは、案件ごとに条件の良い行へ持ち込み続けることです。短期的には有利でも、どの行にとっても自行が中心という認識が育たず、業績が悪化した局面で主導的に支援する行がいない構成になります。
AI審査が進むと、銀行との関係づくりは不要になりますか。
不要にはなりませんが、意味が変わります。関係づくりという側面から、記録を残す行為という側面へ重心が移ります。記録に残っていない定性情報は、AIには読み取られないためです。
従来は、担当者に事業のことを理解してもらい、その担当者が稟議書に反映するという流れがありました。担当者が異動すれば引き継ぎは弱まりますが、後任に説明し直すことで回復できました。
しかし審査が数字中心に自動化されていくと、口頭で伝えたことは残りません。数字以外の情報伝達を明確に設計して銀行取引を行わなければ、数字以外の情報が引き継がれない会社になってしまいます。定例報告のフォーマットを固定し、事業の進捗と数字の背景を文書として蓄積していくことが、これまで以上に重要になります。
2026年9月時点における林 諒の見立てです。
当方の一次データ
構成を組み替えると、調達額の桁が変わる。
バンクフォーメーションの効果は、1本の融資が通るかどうかではなく、数年にわたる調達の総量として現れます。支援先では、構成を組み替えた後に調達額が大きく変わっています。
中古車販売業の会社は、金融機関から提案されるままに融資取引を行っていました。取引先は複数あり、関係も悪くはありませんでしたが、設計がありませんでした。そこで、自社にとって条件の良い融資・適切な借り方へ転換し、取引金融機関の数と種類を増やすと同時に、会社の成長フェーズに合わせたバンクフォーメーションとメインバンク体制を構築しました。結果として1年間で1.3億円の新規融資を獲得し、3年間で累計3.6億円の新規借入を実現。年商は5.5億円から10.9億円へV字回復し、4期連続で過去最高益を更新しています。
宿泊施設運営業の会社では、金融機関アプローチリストを作成し、最終的な取引金融機関数の目標を先に定めたうえで、新規開拓を集中的に実施しました。加えて、一時的に売上が減少しても資金繰りに困らないよう、先にプロパー融資を8,000万円調達し、経営改善に集中できる環境を作りました。1年間で1.9億円の新規プロパー融資を経営者保証なしで獲得し、年商は5億円から15億円へ、営業利益率も10%以上を維持しています。
モビリティサービス業の会社では、一つの資金調達プロジェクトのなかで、半年間で3行合計6.5億円の当座貸越枠を構築しました。1行あたり6.5億円ではなく、3行の合計です。この構成があることで、年商30億円の壁を越える打ち手を止めずに進められました。
サーキュラービジネスのスタートアップでは、エクイティ調達を見据えて、事前に複数の地方銀行との継続的なコミュニケーションを開始しました。並行して、クラウド会計の導入、会計システムと人事システムの連携、経理の業務フロー整備を進め、前月の数字が翌月20日までに試算表として上がる体制を作っています。結果として3行から1億円のプロパー融資を含む1.4億円のデットファイナンスを実現し、エクイティと合わせて5億円の調達を達成しました。
いずれも、金融機関の数を増やしたから調達できたのではありません。どの行に何を担ってもらうかを先に決め、そのために必要な情報開示の体制を作ったことが起点でした。
| 業種 | 構成を組み替えた後の調達 |
|---|---|
| 中古車販売業 | 1年で1.3億円、3年累計3.6億円、当座貸越5,000万円 |
| 宿泊施設運営業 | 1年で1.9億円のプロパー融資(経営者保証なし) |
| モビリティサービス業 | 半年で3行合計6.5億円の当座貸越枠 |
| サーキュラービジネス | 3行から1億円のプロパーを含む1.4億円 |
2019年(独立)以降、レバレッジ資金調達戦略を設計・実装した36業種50社以上(2026年8月時点)における実務にもとづいて記載しています。個社の数値は当該企業の実績であり、業種と規模のみを開示しています。成果は各社固有の状況によるものであり、同様の成果を保証するものではありません。