銀行は、決算書のどこを見ていますか。
貸借対照表からは資産の質と財務の安全性を、損益計算書からは収益の水準と持続性を見ています。実務上は次の10項目に整理できます。
| 項目 | 見られている観点 |
|---|---|
| 預金残高 | 月商の何か月分あるか。手元流動性の厚み |
| 売掛金 | 回収可能性。滞留していないか、特定先に集中していないか |
| 在庫 | 販売可能性。滞留在庫、評価損の要否 |
| 雑資産・不良資産 | 実態のない資産。仮払金、貸付金、長期未収入金 |
| 時価評価される資産 | 土地・有価証券・保険。簿価と時価の差 |
| 借入金 | 総額、返済条件、金融機関別の内訳、保証と担保 |
| 純資産(自己資本) | 実態ベースで債務超過になっていないか |
| 売上高 | 水準と推移。急増している場合はその要因 |
| 営業利益 | 本業で稼げているか |
| 経常利益 | 金融費用を負担したうえで残る利益 |
実態で読む、とはどういう意味ですか。
帳簿に計上されている金額をそのまま受け取らず、回収可能性や時価に置き換えて評価するという意味です。回収見込みの薄い売掛金や、販売の見込みが立たない在庫は、資産価値がないものとして扱われます。
この修正の結果、帳簿上は純資産がプラスでも、実態では債務超過と判断されることがあります。経営者側が把握していないだけで、金融機関側では既にその評価が済んでいることも珍しくありません。
したがって、自社で先に実態を把握しておくことに意味があります。把握していれば説明ができ、把握していなければ、指摘された時点で交渉の主導権が失われます。
自社の調達余力は、どう測ればよいですか。
2つの基準で確認します。債務償還年数が10年以内に収まっているかと、実態ベースの純資産がプラスかどうかです。この2つを満たしていれば、追加の借入余地がある可能性が高くなります。
| 確認する基準 | 見方 |
|---|---|
| 債務償還年数 | 有利子負債から現預金等を控除した額を、返済原資で割る。10年以内が一つの目安 |
| 実質純資産 | 不良資産を控除し、含み損益を反映した後の純資産。プラスであることが前提 |
10年という水準は広く用いられる目安であり、法令等で定められた基準ではありません。業種や設備投資の性質によって妥当な年数は変わります。
利益は、多ければ多いほど良いのですか。
金額より、その利益がどこから生まれているかが見られます。営業利益が薄く、経常利益が補助金や資産売却で嵩上げされている状態は、返済原資としての持続性が低いと判断されます。
逆に、営業利益がしっかり出ていれば、一時的な特別損失で最終赤字になっても、説明次第で評価は保たれます。どの段階の利益が、どんな要因で動いたのかを説明できることが重要です。
月次の数字が遅れていると、何が起きますか。
期中の説明ができなくなり、金融機関は決算書だけで判断することになります。加えて、経営者自身も損益を把握できないまま期末を迎えることになり、決算書を設計する余地がなくなります。
実際に、顧問税理士による月次会計が3か月以上遅れ、さらに決算整理によって試算表から大きく利益が動いてしまう構造のために、決算ぎりぎりにならないと損益が読めないという会社がありました。この状態では、純資産の積み上げも計画的に行えず、融資額は徐々に減っていきました。
月次の数字が翌月中に出る体制は、財務戦略の前提条件です。スタートアップの支援でも、まず前月の数字が翌月20日までに試算表として上がる状態を作ったうえで、大型の資金調達に進んだ例があります。
決算書は、どのタイミングで設計すべきですか。
決算を締める前です。期末を過ぎると数字は確定し、その数字で評価が決まります。必要な調達額から逆算して、どの水準の利益と純資産が必要かを考えるのは期中の作業です。
順序としては、まず3年後に必要な投資額を置き、そこから逆算して必要な借入額を出し、その借入額を支えるために必要な純資産と返済原資を求めます。そのうえで、当期にどこまで利益を計上するかを決めます。
この逆算を行わないまま、節税だけを基準に利益を圧縮すると、必要な時期に必要な額を調達できない状態になります。税負担と調達力のどちらを優先するかは、成長段階によって答えが変わります。
個別の税務処理の可否については、顧問税理士にご確認ください。
当方の一次データ
決算書は、経営のスピードを加速するエンジンである。
決算書を「過去の結果を記録した書類」として扱うか、「これから先の調達力を決める設計図」として扱うかで、その後の数年が変わります。支援の現場では後者の立場を取り、期中から決算書を設計しています。
設計するとは、具体的には次のような判断を、決算を締める前に行うということです。必要な調達額から逆算して、利益をいくら残すか。キャッシュをいくら残すか。役員報酬をいくらに設定するか。純資産をどこまで積み上げるか。
デザイン業の会社では、この設計を行ったうえで、営業代行とマーケティング予算を確保するための資金調達を実施しました。結果として2,000万円の新規融資を獲得し、大手企業との案件を続々と受注、年商は5.4倍になっています。特筆すべきは、役員報酬を倍増させながら4期連続で過去最高益を更新している点です。報酬を上げれば利益は減るはずですが、それでも過去最高益を更新できたのは、逆算して設計していたからです。
この会社が抱えていた本当の問題は、決算書ではありませんでした。営業もデザインもデリバリーもすべて役員が対応しており、忙しすぎて次の事業展開を考えられない。社長の限界が会社の限界になっていました。決算書の設計は、そこから抜け出すための資金を確保する手段でした。
決算書は、単独で良し悪しを評価するものではありません。次に何をするために、どの数字が必要なのか——そこから逆算して初めて、設計という言葉に意味が生まれます。
2019年(独立)以降、レバレッジ資金調達戦略を設計・実装した36業種50社以上(2026年8月時点)における実務にもとづいて記載しています。個社の数値は当該企業の実績であり、業種と規模のみを開示しています。成果は各社固有の状況によるものであり、同様の成果を保証するものではありません。