銀行格付けとは、そもそも何ですか。
金融機関が融資先の信用力を内部的に評価し、区分する仕組みです。決算書から算出される定量評価と、事業内容や経営者を見る定性評価を組み合わせ、その結果が融資の可否・金額・金利・保証の要否に反映されます。
しばしば混同されますが、格付けと債務者区分は別のものです。格付けは各金融機関が独自に設定する内部的な評点であり、債務者区分は正常先・要注意先などの分類です。両者は連動しますが、区分の基準は金融機関ごとに異なります。
実務上、最初に確認すべきは「自社が正常先に区分されているか」「されていないとすれば、どの項目が足を引っ張っているか」の2点です。この2点が分かれば、改善すべき対象が絞られます。
金融検査マニュアルが廃止されたのに、まだ格付けはあるのですか。
あります。金融庁は2019年12月に金融検査マニュアルを廃止しましたが、廃止されたのは検査の共通基準であって、金融機関が自行の融資先を評価する仕組みそのものではありません。債務者区分の考え方は各行の内部格付制度として存続しています。
廃止後の考え方について、金融庁は「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」を公表しています。そこで示されているのは、過去の貸倒実績に依存した一律の見積りから、各金融機関の融資方針や融資先の実態を踏まえた判断へ移行するという方向性です。
実務上の含意は、決算書の数字だけで決まる部分が減り、事業の実態をどう説明するかの比重が上がったということです。ただし定量評価の重要性がなくなったわけではありません。数字が説明の出発点であることは変わっていません。
定量評価では、何が見られていますか。
大きく、安全性・収益性・返済能力・成長性の4つです。このうち融資判断に最も直結するのは返済能力であり、その中心指標が債務償還年数です。
| 区分 | 代表的な指標 |
|---|---|
| 安全性 | 自己資本比率、流動比率、固定長期適合率 |
| 収益性 | 売上高経常利益率、総資本経常利益率 |
| 返済能力 | 債務償還年数、インタレスト・カバレッジ・レシオ |
| 成長性 | 売上高伸び率、経常利益伸び率 |
評価項目と配点は金融機関ごとに異なります。上記は一般に用いられる代表的な指標であり、特定の金融機関の基準ではありません。
債務償還年数とは何で、どのくらいが目安ですか。
有利子負債を、営業活動から生まれる返済原資で何年かけて返せるかを示す指標です。実務上は10年以内が一つの目安とされ、これを大きく超えると新規の融資が慎重に検討されやすくなります。
計算式は金融機関によって異なりますが、有利子負債から運転資金相当額や現預金を差し引いた額を、経常利益に減価償却費を加え税金を控除した額で割る形が一般的です。分母を大きくするか、分子を小さくするかの二通りしか改善方法はありません。
見落とされやすいのは分子側です。借入額そのものを減らさなくても、現預金を厚く持つことで実質的な有利子負債が減り、この指標は改善します。返済を急ぐより、手元資金を残すほうが結果的に評価が上がる場面があります。
10年という水準は広く用いられる目安であり、法令等で定められた基準ではありません。業種や設備の性質によって妥当な年数は変わります。
改善は、どの順序で進めればよいですか。
返済能力に直結する指標から着手します。自己資本比率の改善は利益の蓄積によるため時間がかかる一方、資産の内容を整理することは比較的短期間で効果が出ます。
実態の把握
帳簿上の数字ではなく、資産を時価と回収可能性で評価し直す。回収見込みの薄い売掛金、滞留在庫、事業に関係のない資産を洗い出す。
資産の整理
洗い出した不良資産を処理する。実態の純資産が帳簿を下回っている状態は、金融機関側では既に把握されていることが多い。
返済能力の改善
債務償還年数を改善する。現預金を厚くする、借入の返済期間を組み直す、収益性を上げるの3方向がある。
自己資本の蓄積
利益を計上し、内部留保を積む。節税を優先しすぎると、この蓄積が進まない。
説明の準備
数字の背景を説明できる資料を整える。定性評価と、廃止後の検査・監督の考え方の双方において、説明の質が重みを持つ。
節税をすると、格付けは下がりますか。
利益を圧縮する形の節税を続けると、自己資本の蓄積が進まず、返済能力と安全性の評価が上がりにくくなります。税負担と資金調達力はトレードオフの関係にあるため、どちらを優先するかは会社の局面によって判断が変わります。
実務でよく見かける誤解に、「節税をすればキャッシュが増える」というものがあります。しかし税金を100万円減らすために200万円を使えば、手元のキャッシュは差し引きで減ります。減った分だけ純資産の蓄積も止まり、翌期以降の調達余力が削られます。
早すぎる節税優先で自己資本が育たず、資金調達力が伸びない——これは支援の現場で繰り返し見てきた構造です。節税そのものを否定しているのではなく、成長投資に必要な資金を借入で賄う段階にある会社が、目先の税負担だけを基準に判断するのは順序が逆だということです。
重要なのは、この判断を決算の直前に行わないことです。決算を締めた後の数字は動かせず、格付けはその数字で決まります。判断は期中、遅くとも決算の3か月前までに行う必要があります。
個別の税務判断については、顧問税理士にご確認ください。ここで述べているのは、資金調達の観点から見た場合の考え方です。
格付けが上がると、何が変わりますか。
融資の可否だけでなく、金額・金利・返済期間・保証の要否が変わります。とくに大きいのは、信用保証協会の保証に頼らないプロパー融資が検討対象になることです。
プロパー融資が出るようになると、有限である保証枠を温存できます。保証枠を使い切ってから調達手段を探すのではなく、枠を残したまま次の成長投資に進めるということです。格付けの改善は、目先の1本の融資のためではなく、この構造を作るために行います。
当方の一次データ
決算書は「設計」できる。デザイン業の会社の例。
格付けを上げるということは、決算書を逆算して設計するということです。支援先のデザイン業の会社では、必要な調達額から逆算して、利益をいくら残すか、キャッシュをいくら残すか、役員報酬をいくらに設定するか、純資産をどこまで積み上げるかを決めたうえで決算を組みました。
この会社は、営業もデザインもデリバリーもすべて役員が対応している状態でした。売上も利益も出ているのに忙しすぎて、次の事業展開や経営戦略を考える時間がない。社長の限界が会社の限界になり、売上高の壁にぶつかっていました。
打ち手は3つです。第一に、融資による資金調達を見越した決算書の設計。第二に、営業代行やマーケティング予算を確保するための資金調達。第三に、補助スタッフの採用による社長と役員のリソース確保です。
結果として2,000万円の新規融資を獲得し、大手企業との案件を続々と受注、年商は5.4倍になりました。注目していただきたいのは、役員報酬を倍増させながら4期連続で過去最高益を更新している点です。役員報酬を上げれば利益は減ります。それでも過去最高益を更新できたのは、決算書を先に設計していたからです。
決算書は、過去の結果を記録するだけの書類ではありません。経営のスピードを加速するためのエンジンであり、武器です。決算を締めてから講評を受けるのではなく、期中に設計するものだと考えてください。
| 設計する項目 | 何から逆算するか |
|---|---|
| 当期に計上する利益 | 必要な調達額を支える純資産の水準 |
| 期末に残すキャッシュ | 月商の何か月分を手元に置くかの方針 |
| 役員報酬の水準 | 会社と個人のどちらに資金を置くかの判断 |
| 純資産の積み上げ | 3年後の調達額から逆算した目標水準 |
| 借入の返済期間 | 債務償還年数と月々の返済負担の両立 |
2019年(独立)以降、レバレッジ資金調達戦略を設計・実装した36業種50社以上(2026年8月時点)における実務にもとづいて記載しています。個社の数値は当該企業の実績であり、業種と規模のみを開示しています。成果は各社固有の状況によるものであり、同様の成果を保証するものではありません。