本文へスキップ
林 諒成長企業の社外CFO / 税理士

100億円へ

30億円を超えた会社が、次に向き合うもの

執筆:林 諒(成長企業の社外CFO / 税理士 税理士登録番号 140050)

累計デットファイナンス支援40億円超(2019年(独立)以降、林 諒が支援した企業が金融機関から調達した融資・当座貸越枠等の累計額です。)

レバレッジ資金調達戦略の第3フェーズにあたるページです。3億円から10億円、10億円から30億円とは、財務の論点がもう一度変わります。

年商30億円を超えると、財務の制約は「借りられるか」から「どの資本で賄うか」へ変わります。投資の一件あたりが10億円単位になり、オーガニックな成長だけでは100億円に届きにくくなるためです。ここで問われるのは、借入を有利に取る技術ではなく、資本の構成をどう持つかという判断になります。

  1. 01

    調達は「都度借りる」から「枠を先に確保する」へ変わる。判断の速度を自社側に取り戻すため。

  2. 02

    年商100億円は、オーガニック成長だけで到達する会社のほうが少ない。M&Aが前提に入る。

  3. 03

    財務は、外部に置く機能から、社内に持つ組織へ変わる。

01

なぜ、30億円でもう一度変えるのか

同じ「資金調達」という言葉を使っていても、規模が変われば中身が入れ替わります。


年商3億円から10億円の段階で問われていたのは、必要な資金を確保できるかどうかでした。10億円から30億円では、確保した資金をどこに配分するかへ論点が移ります。

30億円を超えると、そこにもう一段が加わります。その資金を、どの資本で賄うのか。借入で足りるのか、資本を厚くする必要があるのか、あるいは事業そのものを買うのか。判断の対象が、調達の可否から資本の構成へ移ります。

10億円 → 30億円30億円 → 100億円
論点は「資金をどう配分するか」論点は「どの資本で賄うか」
取引は地方銀行が中心。3〜5行メガバンク・政策金融が加わる
都度、必要な額を借りる枠を先に確保し、必要なときに引く
投資は数億円単位投資は10億円単位。回収期間も伸びる
デットで賄いきれるデットだけでは足りない局面が出る
成長はオーガニックが中心M&Aが現実的な選択肢に入る
財務機能は外部に置ける財務を社内組織として持つ段階に入る
説明の相手は金融機関説明の相手に、株主と社会が加わる

02

都度借りることから、枠を持つことへ

必要になってから借りる形のままでは、投資の意思決定が審査期間に縛られます。


  1. 調達の単位が変わる

    1件あたりの投資が10億円単位になると、1行では受けきれなくなります。複数行で分担する前提で、あらかじめ話を通しておく必要が出てきます。

  2. 都度の調達から、枠の確保へ

    必要になってから借りる形では、投資の意思決定が金融機関の審査期間に縛られます。当座貸越の極度額を厚くし、コミットメントラインを持つことで、判断の速度を自社側に取り戻します。

  3. シンジケートローンという選択肢

    1行では出せない規模を、アレンジャーを立てて複数行で組成する形です。条件が統一され交渉が一本化される一方、財務制限条項が付くのが通例で、その内容が以後の経営判断を縛ります。締結前に条項を読み切ることが要点になります。

  4. 取引金融機関の顔ぶれが変わる

    地方銀行中心の構成に、メガバンクや日本政策投資銀行などが加わります。従来の取引先を軽んじる話ではありません。役割が増えるという意味です。

  5. 格付けの意味が変わる

    内部格付けは引き続き効きますが、それに加えて「この会社は資本市場からどう見えるか」が問われ始めます。決算書を設計する目的に、市場からの見え方が加わります。

シンジケートローンやコミットメントラインには、財務制限条項(コベナンツ)が付くことが一般的です。純資産の維持や利益水準の下限が定められ、抵触すると期限の利益を失う場合があります。条件の良さだけで判断せず、条項が以後の経営判断をどこまで縛るかを、締結前に確認する必要があります。

03

デットを中心に置いたまま、資本を厚くする

中心はデットのままです。ただし、それだけでは追いつかない局面が出てきます。


借入は、返済義務を負う代わりに経営権を渡さずに済む調達手段です。この性質は規模が変わっても同じで、だからこそ中心に置き続けます。

一方で、借入の総額は自己資本の厚みに縛られます。投資が10億円単位になると、その天井に先に届きます。デットで伸ばし続けるために、資本の側を厚くする。順序はこの向きです。資本性劣後ローン、増資、社債といった手段は、この文脈でだけ検討します。

エクイティを先に置くのではなく、デットを伸ばし続けるために資本を厚くする。順序を逆にすると、経営の自由度から先に失われます。

04

100億円は、積み上げだけでは届きにくい

年平均の成長率を出してみると、多くの場合そこで前提が変わります。


年商30億円の会社が5年で100億円に到達するには、年平均27%の成長が要ります。事業計画上その水準が現実的でないなら、M&Aは選択肢ではなく前提です。

そしてここで効いてくるのが、それまでに積み上げた決算書です。買収資金を調達できるかどうかは、案件が出てきてから決まるのではありません。案件が出てくる前の決算書で、すでに決まっています。良い案件が来たときに動けない会社は、案件の質ではなく、自社の財務で負けています。

林 諒は、KPMG税理士法人のM&A専門部署で約4年間、150社以上の財務・税務分析に携わりました。買い手と売り手の双方の立場から、企業価値がどう評価されるかを扱っています。

05

財務機能を、外部から社内へ移す

社外CFOという形が有効なのは、社内に置くほどの業務量がない段階までです。


年商30億円を超えると、財務の業務量そのものが常勤の職務として成立します。この段階でなお外部だけに依存していると、意思決定の速度が外部の関与頻度に縛られます。

〜年商30億円年商30億円〜
財務機能は外部に置ける社内に財務組織を持つ段階に入る
社長と社外CFOで判断できる常勤CFOと経理財務部門が要る
月次決算は翌月中旬月次決算は翌月上旬。速度が意思決定を決める
管理会計は社長のための道具管理会計は部門長のための道具になる
外部の役割は、機能そのもの外部の役割は、設計と第三者の視点へ移る

外部の役割が無くなるわけではありません。担う内容が、機能そのものから、設計と第三者としての視点へ移ります。社内の人間には言いにくいことを言う役割が、この規模ではむしろ重くなります。

06

説明する相手に、株主と社会が加わる

金融機関だけを見ていればよい段階が終わります。


この規模になると、数字を説明する相手が金融機関だけではなくなります。株主、取引先、採用候補者、そして事業によっては社会そのものが相手になります。求められる精度と速度が上がり、月次決算の締めが翌月上旬でなければ間に合わなくなります。

林 諒は2023年6月より、東証スタンダード市場に上場するアイエーグループ株式会社(証券コード7509)の社外監査役を務めています。同社の連結売上高は約398億円(2026年3月期)です。この規模の会社で、財務・会計・ガバナンスが実際にどう運用されているかを、内側から見ている立場になります。

本ページの記載は、上記の関与とM&A実務の経験にもとづく一般的な整理です。支援先として関与した企業の最大規模は年商約40億円であり、年商100億円の企業を支援した実績はありません。実際に必要となる水準は、業種、ビジネスモデル、資金の回転期間によって大きく異なります。

質問と回答

よくあるご質問


年商100億円の企業を支援した実績はありますか。
支援先として関与した企業では、年商約30億円から約40億円への成長が現時点で最大です。年商100億円の会社を支援した実績はありません。この規模の財務については、東証スタンダード市場に上場するアイエーグループ株式会社(証券コード7509・連結売上高約398億円/2026年3月期)の社外監査役として、内側から関与しています。実績を大きく見せるつもりはありません。本ページは、その立場から見えていることと、KPMG税理士法人のM&A専門部署で150社以上の財務・税務分析に携わった経験にもとづく整理です。
上場を目指していませんが、このページは関係ありますか。
関係します。上場は選択肢のひとつであって、前提ではありません。年商100億円は非上場のままでも到達できます。ここで扱っているのは、上場の準備ではなく、投資の一件あたりが10億円単位になったときに財務の何が変わるか、です。
デットファイナンスが中心という考え方は、この規模でも変わりませんか。
中心に置く点は変わりません。借入は返済義務を負う代わりに、経営権を渡さずに済む調達手段だからです。ただしこの規模になると、デットだけでは資本の厚みが追いつかない局面が出てきます。そのときに資本性劣後ローンや増資を検討する、という順序です。最初からエクイティを前提に置くことはしません。
M&Aは、どの段階から考えるべきですか。
自社のオーガニックな成長率で目標年商に到達できるかを試算した時点です。年商30億円の会社が5年で100億円を目指す場合、年平均27%の成長が必要になります。事業計画上その水準が現実的でないなら、M&Aは選択肢ではなく前提になります。そして買収資金の調達力は、それまでに積み上げた決算書で決まります。
いつから準備を始めるべきですか。
枠の確保も、財務組織の構築も、決算期をまたいで効いてきます。年商30億円に到達してから考え始めると、多くの場合2〜3年遅れます。10億円を超えた段階で、次の資本構成を視野に入れておくのが現実的です。
財務体制について相談するYouTubeで学ぶ