節税をすると、銀行からの評価は下がりますか。
利益を圧縮する形の節税であれば、下がります。銀行が見る返済能力と自己資本の両方が、同時に小さくなるためです。ただし影響の大きさは、その会社がこれから資金を必要とするかどうかで変わります。
誤解が多いのは「節税=得」という前提です。経費を1使って減る税金は、その一部にすぎません。残りは会社から出ていったままです。手元の現金は確実に減り、その年の利益も自己資本も積み上がりません。
決算書は1期分だけを見られるわけではありません。通常は3期分を並べて見られます。3年続けて利益を圧縮していれば、その3年ぶんの蓄積が無い会社として評価されます。
銀行は決算書のどこを見て、返せるかどうかを判断していますか。
集約すると、返済能力と自己資本の2点です。返済能力は営業利益に減価償却費を足した金額が目安になり、借入総額をこれで割ると何年で返し切れるかが出ます。自己資本は、これまでの利益の蓄積です。
返済能力が示すのは「毎年いくら返せるか」、自己資本が示すのは「どこまで損失に耐えられるか」です。前者が短期の返済力、後者が財務の厚みにあたります。
利益の圧縮は、この両方を同時に下げます。片方だけが下がるのではない、という点が影響を大きくしています。
節税で減る税金と、失う調達余力は、どちらが大きいですか。
多くの場合、失う調達余力のほうが大きくなります。実務上、融資による調達可能額の上限はおおむね純資産の4倍が目安になるためです。純資産を100万円積みそこねると、調達の天井は400万円分下がる計算になります。
実効税率を仮に30%として、税引前利益が1,000万円出そうな会社で考えます。1,000万円を使って利益をゼロにすれば、税金はゼロですが、手元に残る現金もゼロです。300万円を納税すれば、手元には700万円が残り、純資産も700万円積み上がります。
守ったのは300万円、失ったのは700万円です。さらにその700万円は、調達の天井を2,800万円分押し上げるはずのものでした。これを5年続ければ、失う調達余力は1億4,000万円に達します。守った税金の総額は1,500万円です。
なお、純資産の4倍という目安には、もう一つ別の天井があります。年商の50%程度です。年商3億円の会社であれば、純資産がいくら厚くても1.5億円前後が目安になります。金融機関や業種によって幅はありますが、2つの天井のうち低いほうが効きます。
| 純資産 | 調達可能額の目安(純資産×4) |
|---|---|
| 1,000万円 | 4,000万円 |
| 2,500万円 | 1億円 |
| 5,000万円 | 2億円 |
| 1億円 | 4億円 |
実務上の目安であり、金融機関の判断や業種によって幅があります。特定の調達額をお約束するものではありません。
保険で利益を繰り延べると、資金調達力にどう影響しますか。
保険料の支払いによって手元の現金は確実に減り、解約返戻金のピークが来るまで実質的に資金が拘束されます。保障が必要で加入するのは当然ですが、節税を主目的にすると、資金繰りだけが苦しくなります。
前提として、2019年の通達改正以降、保険料の全額を損金にできる商品は限られています。「入れば節税になる」という理解そのものが、現在の制度とはずれています。
より重要なのは、繰り延べは出口の設計とセットでなければ意味がない、という点です。繰り延べた利益は、いつか必ず戻ってきます。役員退職金など、まとまった損金が立つ時期とぶつけられるなら有効ですが、何も設計せずに繰り延べただけであれば、納税の時期が後ろにずれただけです。その間、資金は拘束され、自己資本も積み上がっていません。
保険商品の税務上の取扱いは契約内容によって異なります。個別の判断は顧問税理士にご確認ください。
決算賞与は、節税として有効ですか。
従業員に報いる理由があるなら、良い支出です。ただし損金算入には要件があり、未払計上する場合は支給額を各人に通知することなど、条件を満たす必要があります。要件を外すと、現金は出たのに損金にならないという結果になります。
判断の順序としては、「節税になるか」ではなく「その賞与を出すべき理由が事業側にあるか」を先に置くべきです。理由があるなら実行し、税務上の取扱いは要件を確認して整えます。順序が逆になると、必要のない支出を要件のために急ぐことになります。
要件の詳細と個別の適用可否については、顧問税理士にご確認ください。
決算前に設備や備品を買うことは、節税になりますか。
設備と備品では効き方がまったく違います。設備は通常、減価償却によって複数年に分けて費用化されるため、買った年に全額が経費になるわけではありません。現金は全額出ていくのに、その年の利益はあまり下がりません。
一方、備品の多くはその年の経費になります。ただし、だからといって得をするわけではありません。必要のないものを買えば、減る税金より出ていく現金のほうが大きい。経費にはなりますが、得られるものは限定的です。
「経費になる」ことと「得をする」ことは、別の話です。設備投資そのものは、事業に必要であれば当然に実行すべきものですが、それは事業のための判断であって、節税のための判断ではありません。
節税商品やオペレーティングリースは、どう考えればよいですか。
いずれも前払い型の節税、つまり今期の利益を将来へ繰り延べる仕組みです。手法としては成立しますが、3つのリスクを認識したうえで判断する必要があります。
そのうえで、保険と同じく出口の設計が前提になります。繰り延べた利益を、どの時期のどの損金とぶつけるのか。それが決まっていないなら、資金を拘束しているだけになります。
- 運営会社が破綻するリスク。節税を目的とした事業スキームで運営会社が経営破綻し、出資した企業が損害を受けた例は少なくありません
- 対象資産の価値が失われるリスク。繰り延べどころか、元本を失うことがあります
- 税務上の取扱いが後から変わるリスク。当局の判断や通達の変更によって、想定した効果が得られなくなることがあります
では、節税をしてよいのはどんな会社ですか。
当面まとまった資金需要がなく、手元資金も厚く、自己資本も十分にある会社です。この条件が揃っているなら、税負担を抑える判断は合理的です。
逆に、次のいずれかに当てはまる会社は、多少納税してでも利益を残すほうが有利になることが多いと考えています。今後3年以内に設備投資・店舗出店・広告投資・採用強化を予定している会社。手元資金が月商1.5か月分を下回っている会社。創業から日が浅く自己資本が薄い会社。保証協会付き融資に偏っていてプロパー融資を増やしたい会社。経営者保証を外したい会社。
最後の2つは特にそうです。プロパー融資も経営者保証の解除も、銀行が「この会社は自力で返せる」と判断して初めて動きます。その判断材料が利益と自己資本である以上、節税を優先することは、交渉材料を自ら削ることになります。
つまり分かれ目は、税率でも業種でもありません。これから会社を伸ばすのか、現状を維持するのか、です。
決算前に、何を決めておけばよいですか。
「税金がいくらになるか」ではなく、「この決算書で来期いくら借りられるか」を先に決めます。決算の3か月前には着地の見込みが出ているはずで、その時点であれば打てる手があります。
この順で考えると、「今期いくら節税するか」は最後に出てくる論点になります。多くの場合、順序が逆になっているために判断できなくなっています。
3年後にやりたいことと、必要な金額を出す
採用、広告、仕入、出店、設備、新規事業。金額の精度は粗くて構いません。
そのうち、いくらを借入で賄うかを決める
自己資金だけで賄うのか、借入と組み合わせるのかで、残すべき利益が変わります。
必要な調達額から、積み上げるべき純資産を逆算する
純資産の4倍という目安を使えば、必要な純資産の水準が出ます。
今期に残すべき利益と、役員報酬の水準を決める
役員報酬は期の途中では原則として変更できないため、期首の判断になります。
当方の一次データ
利益を残す設計に変えた、建設業の例。
年商4.6億円の建設会社を支援したときの話です。長期工事を抱え、原材料費と外注費の上昇で粗利が下がり、決算を締めてみたら債務超過という状態でした。
最初に着手したのは資金調達ではありません。会計処理の考え方を見直し、案件別に売上・原価・粗利を管理して、将来の損益を先に見えるようにすることでした。実態が見えていない状態で銀行に説明しても、信用は積み上がりません。
そのうえで、税負担だけを見て利益を圧縮するのではなく、利益を残して自己資本を積み上げる決算書を設計しました。会社と経営者個人の税務・キャッシュフロー・資産形成を、分けずに一体で考えています。
積み上がった純資産は銀行からの信用に変わり、取引金融機関の拡大、借入条件の改善、そしてプロパー融資と7,000万円の当座貸越枠につながりました。年商は12億円まで伸び、年間営業利益5,000万円以上を安定して計上できる構造になっています。
もしこの会社が「利益が出そうだから」と圧縮を続けていたら、この循環は始まっていません。売上 → 利益 → 純資産 → 信用 → 資金調達 → 成長投資という順序は、どの会社でも変わりませんでした。
2019年(独立)以降、レバレッジ資金調達戦略を設計・実装した36業種50社以上(2026年8月時点)における実務にもとづいて記載しています。個社の数値は当該企業の実績であり、業種と規模のみを開示しています。成果は各社固有の状況によるものであり、同様の成果を保証するものではありません。